2年前プレイベントをダイジェストでご紹介!【動画配信中!】
大会開閉会式総合ディレクター・スペシャルアンバサダーの野村萬斎氏が、第一部ではステージの演出を手掛け、第二部では田中美里氏とのトークショーに出演し、会場を盛り上げてくれました。その模様をお届けします。
- 日時 令和3年12月27日(月) 18:00~19:45
- 会場 石川県立音楽堂 邦楽ホール
第一部 和と洋のステージ
石川県ゆかりの出演者がコラボレーションする、過去に類を見ないステージを披露。
文化の化学反応による新しい世界観をお楽しみください!
出演

御陣乗太鼓(県指定無形民俗文化財)
輪島市名舟町の神社で演じられる太鼓打ち芸。
輪島市内や能登の旅館などを中心に活動しながら、国内外で多数公演を実施。

加賀山 紋(民謡歌手)
令和元年県文化奨励賞受賞。
能登麦屋節や山中節の全国大会で優勝するほか、コンサートや民謡教室を開催し、本県における民謡の振興と発展につながる活動が顕著。

黒崎 菜保子(左手のピアニスト)
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭、左手のピアニストの為の公開オーディションにて優秀賞を受賞。
【演奏曲】アヴェ・マリア
【編曲】 北方 喜旺丈
第二部 野村萬斎 × 田中美里 トークショー
テーマ「アップデート石川!文化の化学反応」
NHK連続テレビ小説「あぐり」に夫婦役で共演されたお二人が、石川県の文化の魅力や、大会に向けた思いなどについてお話しくださいました。息のあった軽快なトークを一部ご紹介します。
出演

野村 萬斎(のむら・まんさい)
狂言師。祖父・故六世野村万蔵及び父・野村万作に師事。国内外で多数の狂言・能公演に参加する一方、映画・テレビドラマへの出演、舞台の演出など幅広く活躍。

田中 美里(たなか・みさと)
女優。石川県出身。1997年、NHK連続テレビ小説「あぐり」のヒロイン役でデビュー。その後、数々の映画、ドラマ、舞台のみならず、吹き替えや、ナレーションなどでも活躍。
トークショーの内容は動画・テキストでご覧いただけます。
トークショー 動画版
トークショー テキスト版
文化の化学反応でいろんな世界観を見ていただく
田中氏
久しぶりですよね。あのドラマも25年前ぐらいになりますか。
野村氏
そうですね。銀婚式ですね。
田中氏
私は演技は初めてで右も左も分からなかったのでいろいろ教えていただきました。萬斎さんが台本にいろんな肉付けをされていく姿を間近で見ていて、「ああ、こうやってお芝居ってつくっていくのか」とすごく教わったような気がします。
野村氏
まあ、遊んでるだけというかね。決められたことだけやるより、そこからどう発想していくかが面白いと思っているんでね。懐かしい話もさることながら、今、第一部の「和と洋のステージ」でかなりぶっ飛んだものをご覧いただきました。

田中氏
すばらしかったです。舞台に吸い込まれそうな感じがしました。アヴェ・マリアっていう選曲がすごかったですね。
野村氏
御陣乗太鼓は根源的な魔よけだったり、外敵に対する威嚇だったりっていう、地獄の鬼、修羅道を見るような感じですよね。好戦的、男性的な部分と、ちょっと地を這うような部分もあって、それに天から包み込むようなヴォーカルの天上界、ピアノという非常に人間の声にも近いと言われる楽器、そういうアンサンブルが皆さんの耳に新感覚で届けばいいなと思ったんです。それぞれの方がそれぞれの芸を持っているから、成り立つと思うんです。皆さんその道のプロです。
田中氏
まさに化学反応ですね。
野村氏
そう言っていただけるとありがたいです。そうすると違いが際立つというかね。
リハーサルするたびに全身全霊、一心不乱に太鼓を打たれるんで申し訳ないほどでね。
やっぱり芸能の力というのは人智を超える気がします。
そして、民謡というヴォーカルテクニック。
田中氏
本当に体から沸き上がるような、響く歌声でアヴェ・マリアを聞くと、また違った感覚になりますね。神々しかったです。
野村氏
これはもしかしたら日本人のDNAなのかもしれないですけど、懐かしさとともに高音の響きとかが、何か気持ちいいですよね。
田中氏
寄り添うようにピアノのメロディがあって、本当にすばらしかったなと。
野村氏
本来、左手だけで弾いていただくのですが、御陣乗太鼓の勢いに負けないように右手や肘も全てを使いましょうとなりました。発想の基は、実は僕、ここの音楽堂の15周年にフルオーケストラで、ラヴェルの「ボレロ」という楽曲を狂言の舞でやったんですね。「ズン♪ ズズズズン♪ ズズズズン♪ ズン♪ 人~生~♪」。実は水戸黄門とリズムが一緒とかね(笑)。やっぱり繰り返しと高揚感があるっていうのが、何かみんなを揺さぶるところなんでしょうかね。今日の御陣乗太鼓だってある種繰り返しで、縦乗りですし。そういう中でやっぱり祭りとか芸能の魂というのは上がってくるというかな。
田中氏
「ボレロ」に合わせた狂言ってどう動かれるんだろうと想像もつかないですね。
野村氏
バレエとか西洋の音楽はどちらかというと音を体現するそうなんですよ。全部をリズムに、ズンズン、ポンピングするじゃない。狂言や能ですと、リズムに合わせて拍子を踏むけれども、時々そのリズムと全く関係なくただ回るだけとかリズムから離れる。でも、ここでぴたっと合うという解釈。今日も多分、御陣乗太鼓と他が合っているのか、一種かなりカオスな瞬間もあるでしょうけども、ずっと一緒よりカオスがあった上で最後に揃うときにかえっていろんな世界観を見ていただけるような。そんなことを実験してみようかなとかね。
アイデンティティを持ってアップデートしていく
野村氏
今日は2年前イベントということで、石川県が主役の大会でございますけども、石川県の魅力について、まずは美里ちゃんから何か。
田中氏
石川県には「あぐり」で上京したので18歳までいたんです。学生だとそのよさって分からなかったんですけれども、離れると春は桜、夏は新緑で、秋は本当に落ち葉のオレンジがきれいで、冬は真っ白な冬景色っていうカレンダーを見なくても四季が分かる豊かな場所に育ったんだなと。観光スポットだったり、古い町並みだったり、建物、それから文化的なもの、庭園も全て歩いて行ける距離にあるというのもすごくいいところだなと思いますね。

野村氏
私も曾祖父が一応加賀の前田藩のお抱えだったというご縁がありながら、意外と今までは縁があんまりなかったんですけども。これを折によくよく石川県を勉強したいとも思います。特に何か好きなものとかありますか。
田中氏
21世紀美術館がすごく好きで、来るたびに「タレルの部屋」で雲の移り変わりを見ながらぼーっとしています。学生のときには遠足で浅野川や犀川に行きました。海も山も川も本当に身近にあって豊かだなと思うし、山の幸、海の幸、そしてお米、お酒、おいしいなと思いますね。
野村氏
すごい恵まれてる地域なんでしょうね。でも、皆さんその中にいるとあんまり感じない。僕自身も狂言やっているのが当たり前の家に生まれると、何で狂言やっているのかな、自分のアイデンティティは何なんだろうと、当たり前を当たり前でなくするということが時々すごく勉強になるというかね。決められたことしかやっちゃいけないんだという世界から、朝ドラで役者の皆さんがこんなに自由に魅力的にいることも僕にとっては衝撃的だから、遊んでいいんだと思って遊び始めた。
御陣乗太鼓のお面だって一番古いのは400年前。今日は200年ぐらい前のものを代々使っていて、欠けたら自分で直すとおっしゃっていました。そういうふうに代々やったことを伝えることと、どこかで遊ぶということがないと。おのれを知るというかね。
僕ね、アップデートという言葉に最近ハマっていて。何か改良する、最適化するけれども、元々の芯は変わらない。石川県も18歳の頃から比べると相当アップデートされたでしょうね。
田中氏
そうです。学生のときには21世紀美術館はなかったので。今までの古い文化を大切にしつつ、新しいものにも挑戦している感じですね。石川県出身ということでは、能楽堂で能を見たり、狂言を見たりは学校の行事としてあって、正直言って学生だからまだ分からないんだけども、空気感だったり、匂いだったり、初めて見る衝撃だったり、そういうものは残っていて大人になってからまた振り返られる。分からないまま文化に触れていくことはすごく大切だと思っています。
野村氏
最初から全部分かるということはあり得ないし、何か引っかかっていて記憶が呼び覚まされるのは大変ありがたいことですよね。
みなさんが主役で、能登や加賀も含めた多様な石川をアピール
野村氏
今はどっちかというと石川県の良いところを聞きましたけど、石川県のここが嫌だみたいなところはありますか。
田中氏
「嫌だ」っていうのはないけど。以前、インタビュアーとして石川県に降り立って、テレビカメラに囲まれてしゃべっていると、皆さん興味を持って集まってこられるんですけど、いざインタビューしようとするとみんな逃げるんですよ。恥ずかしがり屋さんというのかな。いい言葉で言えば奥ゆかしい部分でもあると思うんですけど、「もう少しみんな協力してほしい」って思いました。
野村氏
それは大問題ですね。
田中氏
2023年に向けて皆さんで協力して盛り上がっていただければなと思います。
野村氏
今度は皆さんが主役ですのでね。「私、結構です」って言われちゃうと、キャストがいない。舞台が空っぽになってしまうので。
田中氏
ぜひいろんなことに参加していただきたい。萬斎さんは東京から石川県にいらしてどう感じられますか。
野村氏
城下町というんでしょうかね。非常にまとまっているけど、ちょっと外の人と内の人という違いがありそうな気がする。でも、僕の先祖は内の人ですからね。何か親しみを持ってはおります。いろいろな意味で東京とは違う奥ゆかしき歴史や伝統がありながらちょっとシャイなところがあるので、もっともっといろんな魅力が出せるのかなと。
私もまだまだ勉強中でございますので、国民文化祭では石川県を知る機会にしていただけるよう、県外から来る者が「こういう角度から見たら面白い光を放ちますね」とかいうことがうまくできるといいと思っています。また大きな話になっちゃうけれども、今、多様性とか持続性という言葉がニュースでもよく聞くじゃないですか。世界的な流れの中で、石川県をどうアピールしていくか。多様性というときにはまず個人もないと多様にならない。自分の未来に関することも含め、アイデンティティを持って付き合うからこそ多様であるというか。みんなが一緒になりがちな世の中でそれぞれが違うことを尊重し合うことが多様性なのかな。自分を知るがごとくに知ってほしいなと思うんですよね。
田中氏
そうですね。
野村氏
石川県というと金沢だけでなくて、能登と加賀ですよね。どうしても金沢中心になっちゃうので、そうならないようにというのも一つの使命ですし、金沢でない地域にどうアイデンティティを持っていただくかということも知恵の絞りどころだなと。
田中氏
それぞれ全く違うよさがあって、例えば、能登は土までも優しい感じですごく素朴だけれども、本当に癒やしを与えてくれるような場所で。全くよさが違うので、そういうものが隣接しているのはすごく石川県のいいところかなと思いますね。近過ぎて当たり前だと思っていることが、ものすごくうらやましいことだったり、すばらしかったりするので、そういうものを出していただけたら嬉しいですよね。
野村氏
芯の通ったものをちょっと違う角度で見るとすごく新鮮というか。「特に、石川県の文化ってもう有名だから、ある種固定概念化されているかもね」という話も今日していて。それを無理やりいじくるわけではなくて、魅力的にもう一回見直すということがもっとあってもいいのかなとか。もう既にやられてもいるとは思うんですけれども、文化祭という機会に、スポットライトが当たるので皆さんにそういう気持ちになってほしいなと。入り口は何でもいいんです。「やってよかった、見に来てよかった」となればいいなと思うわけでございます。
田中氏
本当に2023年に向けて、お一人お一人の住まわれているところの誇れるところをみんなで言い合って盛り上がっていければいいなと。私も含め盛り上がっていければと思っていますので、皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。 (終)
